少しリフレッシュしたい気持ちでいた、ある春のはじめ。
5日ほど休みがとれそうだとわかり、旅先を考えていたところ、
オーストラリアのウルル(エアーズロック)の話を聞くことが重なった。
「旅先の方角は南がいい。」
年のはじめに、そう言われたことを思い出した私は、
一人ふらっとウルルに飛んだ。
赤土の地平線上に、突如現れる、アボリジニの聖地、ウルル。
高さ 348mと聞くと、さほど高く感じないかもしれないが、
その一枚岩の迫力は、相当大きく感じられた。
登るものではないと崇める先住民と、
そこに山があるから登ろうとする他所者。
昨年、いよいよ登山禁止になったらしいが、
その時、私がそこで出逢った人たちは、ただ静かに眺めにきた人ばかりだった。
陽が昇る中、陽が暮れる中、
くっきり浮かび上がるウルルの縦の地層は、
そのむかし、地層が隆起して縦縞になったと聞いて驚いた。
まさに地面をひっくり返すエネルギーの結晶のようで、
今日は、これを眺めているだけでいいなぁ、と思ったりした。
そんなウルルを中心に、
真っ平らな赤土、見たことのない植生、乗り慣れないラクダの背中、
昔々に描かれた壁画、空一面のミルキーウェイな星空。
一人で、新しいものに触れた興奮を持てあましながら、
この強烈な色を、なにか形にして持って帰れないか、考えていた。
滞在先に戻った私は、その一角にあるお店のショーウィンドウの前を通る時、
ふと、小さなガラスの香水瓶が目に入った。
香水瓶というものには、これまであまり興味を持ったことがなかったのだが、
ガラスが好きなことと、香水瓶と認識する前に目に飛び込んできた鮮やか色に惹かれ、立ち止まった。
お店の方と笑顔を交わすと、
「イギリス出身の作家が、タスマニアの風景に惹かれて、
工房を作って、ここの風景を形と色にしたものなのだ」と教えてくれた。
いずれも個性的で、全然違う雰囲気。私は、赤のベースに、
黄色や薄いブルーの色が散りばめらた香水瓶を買った。
赤い大地や星や空を思った。
旅のカタチと色をした、リチャード・クレメンツの香水瓶。
いまだに香水瓶として使ったことはないが、上の蓋を開けると、旅の香りがしてくる気がする。